カリフォルニア州は、中高生の睡眠不足解消による教育向上効果を目的として、法律に基づき中学高校の始業開始時間を遅らせることを決定しました。
“カリフォルニア州が、中学高校の始業開始時間を遅らせる法律を施行する最初の州に”/ロサンゼルスタイムズ
一部の学校関係者の反対によりこれまでも2回廃案になってきた法案ですが、今回州知事は「科学的知見は、始業時刻を遅らせることが10代の学生の学業成績、出席率、および総合的健康状態のいずれも向上改善させることを示している」と声明で述べ、法案の施行まで3年間の移行期間を設け、段階的に実施することが決定しました。
米国疾病対策予防センターによると、カリフォルニア州の中学高校の平均始業時間は午前8時7分。
日本と比べて早いと思いますか?遅いと思いますか?
日本では、部活の朝練や朝テストなどの目的で、7時や7時半といった、始業時刻よりも早い時間での登校を促している学校が多いように思います。
人は、それぞれに、「何時に眠って何時に起きると、(勉強もスポーツも)最大のパフォーマンスを発揮できる」という時間スイッチを持っています。
その眠りのスイッチと起床のスイッチのベストタイムは、一人ひとりそれぞれに異なっています。そうした個人差があるうえ、さらに同じ個人の中でも年齢によってベストタイムは移り変わる、という特徴があります。
例えば50歳のAさんは、24時に眠って、7時に起きると絶好調だと感じています。
年齢による変動を考慮すると、おそらくAさんが20歳のときのベストタイムは2時頃に眠って10時頃に起きる、というものだったと推測できます。誰しも、若いときのほうが夜ふかしであるという生物学的特徴を我々は持っています。
みなさんも、次のような経験はありませんか?
若い頃は夜中何時まででも起きていられたのに、年を重ねたら夜ふかしできなくなってきた。
若い頃は朝起きるのが辛くて、よく遅刻して怒られたけれど、年を重ねたら朝起きられるようになった。
人間は15歳前後から20歳にかけて、急速に夜型に傾きます。特に男性は女性と比べるとより強く夜型になる傾向があります。
この結果、15歳から20歳にかけての学生が最もパフォーマンスを発揮できる時間帯と、社会生活時間(学校生活を送る時間帯)に大きなズレが生じ、本来眠っていたほうが良い時間に起きて登校することを強要され、これから調子が出てくる時間には下校をする、という状態に陥ってしまいます。
日本の学校が開いている時間は、朝型の若者と、中年以降の年齢の人にとってはとても快適な時間帯です。しかしながら、多くの中高生・大学生にとって、今の学校が開いている時間はベストパフォーマンスを発揮できない時間となっています。特に体質的に夜型の若者にとって生活リズムを社会生活時間に合わせることは容易ではなく、中学生・高校生頃から急に朝が起きられなくなり、学校へ通うことができず、結果として退学を余儀なくされるという事例が少なくない数で発生しています。
このことは、若者の能力を育み成長を促すはずの教育システムが、むしろ本来の能力を発揮する機会を損ない、成長の芽を摘みかねない環境を与えている、ということを意味します。
米国小児科学会は2014年にすでに「中学校と高校は始業開始を8時以降にすべきだ」という提言をしていました。小児科医グループは、「思春期の睡眠不足が公衆衛生の問題であると認識し、始業開始時刻を遅らせることの科学的根拠を支持し、身体的および精神的健康、安全性および学業成績に関して生徒に利益以外の何者でもない」と述べています。
今回のカリフォルニア州の法律は、子供たちの健康と福祉を、社会の枠組みによって守るために作られましたと感じます。
今、日本の子どもたちはアメリカ以上に公衆衛生危機に直面しています。世界で一番子どもが眠らない国は日本です。そして先進国の中で唯一日本だけが、10代の子どもたちの自殺率が上昇しています。
始業時間を遅くすることで、子どもたちの健康状態は向上し、学業成績が向上し、スポーツのパフォーマンスが上がり、尊い命が救われます。
この議案が州議会で可決される前に、ある議員さんが次のように述べたそうです。
「この国のティーンエイジャーは睡眠不足です。これは公衆衛生の伝染病であり、この伝染病の主な原因は、思春期の子供の生物学的睡眠のニーズに合わない始業開始時刻です。」
反対派は、この始業開始時刻変更がバス路線に影響を及ぼすとか、両親が仕事に行く前に子どもを学校へ送ることができないとか、課外活動が夜遅くまでずれ込むことになると危惧しました。日本の睡眠学会でも、この話題が取り上げられた時に、「始業時間が遅くできたとしても、どうせまた、朝テストや朝学習を始める・・・始業時刻を遅らせることを提言するなら、その対策も考えた上で社会的に提言してほしい」なる意見が出されました。
それは、果たして本質的な問題なのでしょうか?『学業成績、出席率、および総合的健康状態のいずれも向上改善させる』結果を帳消しにするほどの重大な問題だとは、到底思えません。
もちろん、いま実際に動いている仕組みを変えるためには大変な労力が必要です。一朝一夕に出来ることではないでしょう。しかし、若者のパフォーマンス発揮や成長の機会を潰してしまう社会の仕組みを、このまま放置しておいて良いのでしょうか?科学的根拠のない社会規制は、むしろ今後の日本にとって非常に大きなリスクとなりうる、と私たちは考えます。
睡眠専門医・産業保健師・看護師などのプロフェッショナルチームによるセミナー・講演等も受け付けております。
エビデンスに基づく健康経営とヘルスケアデータマイニング、そして睡眠改善プログラムを提供する株式会社こどもみらいは、個人の体内時計と行動・渡航パターンに応じた時差ボケ対策プログラムである「eSLEEP® jet lag」APIのαバージョンの提供を開始します。また、本APIのアルゴリズムが実際に早期の現地適応を促すことが、生体指標を用いて検証されました。
・時差ボケと対策の重要性について
ヒトには24~25時間の周期で動く体内時計があり、概日リズム(サーカディアン・リズム)と呼ばれます。睡眠や覚醒をはじめとして、体温、血圧、身体的パフォーマンス、胃腸の動き、認知機能なども一日の中で大きく変動し、約24時間の周期性を持っています。
時差のある地域へ移動したとき、体が覚醒・食事・運動・睡眠をしたがっている時間と、現地で実際に活動・休息したい時間とが乖離すると「時差ボケ」となります。また、現地に短期だけ滞在してすぐに帰国するという場合も、体内リズムがずれ始めた状態で帰国することになり、やはり不調を招きます。これらが顕著に心身に悪影響を与える場合には、「概日リズム睡眠・覚醒障害」の「時差障害」と診断される場合もあります。
時差ボケはせっかくの旅行や出張で存分に楽しめない、力を発揮できないのみならず、心身の不調を起こしてしまう重大な問題であり、対策が必要です。
・時差ボケ対策アルゴリズムとそのAPIについて
体内時計のうち、とくに「中枢時計」と呼ばれる全身の細胞・組織のリズムに影響を与える時計は、ヒトの場合は光によって調整されます。また、胃腸などの「末梢時計」は食事の影響も受け、全身的な体調にやはり影響を与えます。
朝方の光は体内時計を前進させ、夜の光は体内時計を後退させることは以前から知られていましたが、我々の研究チームは、おおよそどの程度の時間に光を浴びると体内時計が前に動くのか、あるいは後ろに動くのかが、個人によって異なることを明らかにしました。たとえば、同じ午前4時に浴びる光であっても、朝型の人にとっては体内時計を早める一方で、一定以上の夜型の人にとっては、体内時計を遅らせてしまいます。(下図1)
このため、本アルゴリズムおよびAPIは、その人の体内時計の個人差を把握しつつ、体内時計を早めることで現地に適応すべきか、遅らせることで適応すべきか、あるいは体内時計を動かさないほうがよいのかを判定した上で、最適なタイミングで光を利用すべきタイミングを提示し、その具体的な時刻を提示します。また、睡眠と覚醒、日中の体調に影響するその他の要因(食事タイミングやカフェインの摂取)についても助言を提供します。
・本アルゴリズム利用の有用性
下記のグラフは、本アルゴリズムを渡航前日から利用した利用者の、体内時計の代表的な指標である「深部体温」の推移を表しています。通常、大幅な時差を伴う地域への渡航には、適応するためには1週間以上の時間を要するとされていますが、この利用者は日本と8時間の時差がある地域において、現地に到着した翌日には現地での望ましい活動時刻に適応できたことを示します。利用者本人からも、利用しなかった際の以前の出張に比べ、「著明に体が楽だった」という主観的な改善効果が寄せられています。
・今後の「eSLEEP® jet lag」の取り組み
渡航先でのアクティビティを充実させ、さらには生産性を高めることが可能な本技術は、時差のある地域への渡航が多い丸紅従業員組合所属の組合員の皆様へ、現在トライアル提供をさせて頂いております。また、「体内時計という、自分だけの時間に回帰する」「睡眠で従業員の健康と生産性を、分析・向上させる」サービスを運営されている株式会社O:様のO:SLEEPの一部パッケージにもご利用いただいています。
本技術は今後、渡航者のみならず、過酷な勤務環境に置かれているシフトワーカーへも体調の改善効果を発揮できることが期待でき、さらなる研究開発を行ってまいります。
<株式会社こどもみらいについて>
株式会社こどもみらいは、科学的根拠 に基づいた健康経営を推進するプロフェッショナルチームです。睡眠と健康に関する研究「Sleep & Health Research」、睡眠改善プログラム「eSLEEP」、生活習慣や睡眠も含めたストレスマネジメントの要となるストレスチェック「STRESCOPE」などを提供しています。
https://cfltd.co.jp
<株式会社O:について>
「体内時計という、自分だけの時間に回帰しよう」をコンセプトに2016年12月に設立。一日24時間という決められたサイクルではなく、個々人固有の体内時計を軸にした、新しい生き方、働き方の社会実装を目指しています。今後は睡眠分野に限らず体内時計が関連する幅広い分野への積極的な事業展開を目指します。
http://o-inc.jp/
<eSLEEPについて>
eSLEEPは、株式会社こどもみらいが2012年から睡眠研究医主導のもと、医師・心理士・保健師・統計学者(データサイエンティスト)を中心として提供・開発している睡眠改善プログラムです。eSLEEP academicとeSLEEP businessでは、組織単位で睡眠と生活習慣の問題を医学的に評価・分析し、睡眠コンサルティングと個別指導による改善を通して、心身の疾患の予防と生産性の向上を図ります。2015年には教育現場における出席率の向上や退学予防効果を、2018年には職域における利益向上効果を定量的に明らかにしました。
https://esleep.jp/
株式会社こどもみらいでは、睡眠や健康に関する講演を企業・学校向けに行っています。
最近の講演のご感想を紹介します。
田中倫子先生に教職員修養会・研修会でご講演いただきました。教職員に大変良い機会を与えてくださり、また田中先生のお人柄から説得力のある講演に感銘を受け今後の生徒指導、また教職員自身の健康に留意することのポイントを睡眠から示唆していただきました。
例年になく関心が高く生徒への生活、健康指導への手がかりを与えられられたと声が聞こえました。
適切で歯切れ良く聞きやすく、実践とご自身の体験を交えおそらく保護者への影響も多く与えられる方であろうと想います。
まこと本学園の時宜に適った講師をご紹介いただきましたこと心より感謝申しあげます。
講演をご希望の方、詳細のお問い合わせはこちらからご連絡下さい。
https://cfltd.co.jp/contact
こどもみらいでは今後も科学的根拠に基づいた睡眠および健康に関する情報の発信に努めて参ります。
株式会社こどもみらい( https://cfltd.co.jp/ )は、科学的根拠 に基づいた健康経営を推進するプロフェッショナルチームで す。睡眠と健康に関する研究「Sleep & Health Research」、睡眠 改善プログラム「eSLEEP」、多⾯的なストレス対策の要となる ストレスチェック「STRESCOPE」などを提供しています。
eSLEEP( https://esleep.jp/ )は、株式会社こどもみらいが2012年から睡眠研究医主導のもと、医師・心理士・保健師を中心として提供している睡眠改善プログラムです。組織単位で睡眠と生活習慣の問題を医学的に評価・分析し、睡眠コンサルティングと個別指導による改善を通して、メンタルヘルス疾患・身体疾患の予防および生産性の向上を図ります。2015年には教育現場における出席率の向上や退学予防効果も明らかにしました。
STRESCOPE( https://strescope.jp )は、株式会社こどもみらいが提供する、医学的根拠に基づいた具体的な提案によりストレス改善を目指すためのストレスチェックサービスです。厚労省所定の項目に独自の項目を加えてストレス要因を特定し、個人向けに生活習慣の観点も含めた具体的な改善提案を行うほか、集団分析により企業が取り組むべき事項を明らかにするなど、健康経営のための投資対効果にこだわり、精神科医・産業保健師を含むプロフェッショナルチームにより運営されています。
先日、都内の甲子園出場などで有名なスポーツ強豪校での講演に行ってきました。
高校1~2年生の皆さんに聞いて頂きましたが、最後に睡眠の量について生徒さんから質問が出ました。まだ、制服の裾が自分の手足よりも長く、入学したばかりの1年生だろうなぁと思われる男子生徒
「僕は、中学の時の保健体育の教科書に、中学生に必要な睡眠時間は6~8時間と書いてあったのを信じていました。あれは嘘ですか?」
教科書に嘘?て、ありえない?!
そう思って当然ですよね。
講演では、必要な睡眠時間について、アメリカ国立睡眠財団が発表している時間数を伝えました。
14~17歳 の理想の睡眠時間は 8~10時間。講演に参加された16~17歳に絞ると8~8.5時間。
加えて、全員が8.5時間必要ではなく個人差があること、個人差の分布、睡眠不足の判断方法、20歳以降は毎年数分ずつ必要な睡眠時間が短くなっていくのが一般的であること。
これら睡眠の基本知識を一緒に学びました。
生徒さんたちに、その場で挙手にて平日どのくらい眠っているかを聞いたところ、5~6時間しか眠っていない高校生がなんと多いことか・・・
先進国の中でこんなに眠っていないのは日本の高校生だけであるということを今日も身を持って体感してしまいました。
これは、10代の自殺の問題にも関連している大変由々しき問題です。
男子生徒の質問に
「(最新の知見からすると)間違っています」と即答すると、高校生たちは皆、苦笑。
今の日本の受験制度や学校組織の仕組みに、高校生が充分な睡眠を取ることができる構造は残念ながら見当たりません。
日本社会として取り組むべき課題であると認識しています。
それはそうと、保健体育の教科書を真面目に読んでいる子もいるんだなぁと、ほっこりした気持ちになりました。
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